MENU

食道腫瘍摘出手術

目次

8時間に及ぶ大手術

 手術日の2日前に入院し、当日を迎えました。全身麻酔をする以上、手術中の万が一があるかもしれないということで、妻として多くの書類にサインをしました。それこそドラマのシーンのようで、万が一があることもあるのだと小さな覚悟をしました。闘病中、入院する時、重要な検査をする時など、事あるごとに家族同意のサインをする機会がありました。

 食道の腫瘍を取り除く手術は、9時~17時、8時間に及びました。少し前までは、胸部を十字に大きく切らないと行えなかった食道切除の手術ですが、今は喉の切開と腹部に小さな穴をいくつか開けて行う腹腔鏡手術という方法がとられました。体への負担も少なく、術後の治りも早いとのことです。

 担当医は、経験豊富な外科部長。歯に衣着せず、淡々と話すポーカーフェイスな医師で、Pくんとともに始めから好感を持ちました。担当医との相性は大きなポイントで、信頼できるかどうかはとても重要だと思います。これからの自分たちの人生を預ける訳ですから…。

 その担当医からは、「手術時間が短いと腫瘍の状態が悪く手の施しようがないという証拠」だという話も聞いていたので、待っている時間は辛く厳しいものでした。でも、だからこそ、手術時間が長いほど家族にとっては有難いことでもありました。娘と待っている間、私は持参した本を1冊読み終えてしまいました。自分の辛い気持ちを紛らわすように読んだ本は「君の膵臓を食べたい」。ラストあたりで号泣しながら読んだこの本のことを、私は一生忘れないだろうなと思いました。

 術後、主治医は、切り取った食道の腫瘍を見せてくれました。シャーレにのっている実物の腫瘍はとてもグロテスクでしたが、担当医があまりにも自然に説明を始めたので、こちらもその流れで冷静に聞くことができました。

 ともかく、腫瘍は思ったよりも大きく食道をふさぎ、隣の臓器にびっしりとこびりついており、それをメスで少しずつ切り取っていくのがどんなに大変だったかを力説していました。諦めずに時間をかけて下さったことがわかり、本当に感謝の気持ちでいっぱいでした。それにしても、シャーレに乗った腫瘍は、色といい、様子といい、本当に“悪いヤツ”のオーラを放っていて驚きました。そんなものを見たことはもちろん初めてですが、只者ではないことは素人でもわかり、その感想は娘も同じでした。

 手術室から出てきたPくんは、何本もの管につながれていて、もちろん意識はなく迎えた家族もその姿はとてもショックでした。娘は「正直、あの姿を見た時は正直、終わったかも…」と思ったと話していました。それは無理もないかもしれません。生まれた時から自分の父親は元気で大きい人、強い人のイメージしかなかったので、その父親がたくさんの管につながれて意識なくベッドに横たわって運ばれているわけですから。

 でも人の力って、すごいです。もちろん医療の進歩も驚異的ですが、術後2日目から少しずつ管が外れていき、廊下を歩くリハビリが始まりました。

私はその頃、時間があれば本やネットからいろいろな情報を何時間も調べる日が続きました。そんな時、夫の闘病記を綴ったブログを発見。その人は余命1年半と言われていたのに、10ヶ月で力付きてしまったという事実を知り、そんな辛い現実もあるのだと愕然としました。でも、明るく治療に向き合っていた仲睦まじいご夫婦像が素敵で、こんなふうに過ごしていけたら良いな、見習いたいな、と思いました。私には、難しいことを連ねた本より、実際に立ち向かった人の生きた言葉で綴られたそのブログがとても参考になり、力をいただけたような気がしました。

体重-11kg(86kg→80kg→76kg)

聞いたことには真摯に答えてくれる、ポーカーフェイスの担当医
よかったらシェアしてね!

この記事を書いた人

ポエムと猫が好き。甘やかされて育った末っ子です。
高校生の時に出会ったPくんと結婚。お魚の骨は取ってから、甘栗の殻はむいてから…Pくんは父から受け継いだそんな習慣を完璧にこなしてくれました。おかげで、見事に世間知らずのまま中年と言われる年齢になってしまいました。
Pくんの病は、そんな私にとって人生初のあまりにも厳しい試練となりました。

この瞬間にも、どん底に突き落とされてお辛い状況の方たちがいるかもしれませんが、私の日記のどこかに小さな励ましとなることがあれば幸いです。

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次
閉じる